久々の向精神薬多剤大量療法

旭川市東光の心療内科

あおぞらクリニックの菊地です。

向精神薬の使用量が飛び抜けて少ない心療内科医です。

ある患者さんのサマリーをまとめていて、どん引き。

他院で向精神薬多剤大量処方されていて、当院には紹介受診。

妄想性障害という診断で、

初診時に服用していた向精神薬は、

①レスリン®(抗うつ薬)
②レキサルティ®(抗精神病薬)
③エビリファイ®(抗精神病薬)
④ワイパックス®(抗不安薬)
⑤ベルソムラ®(睡眠薬)

の5剤。久々に見たね。

私なら絶対にやらないこの処方内容。見た時点で引いちゃいましたが、

それでもなんだか、それなりのコンディションで寝起きしていることに驚く。

こんなに飲んでいても、平気なものなんだなと、ため息が出ました。

このようにケロッとしている患者さんがいるので、多剤大量療法もこの世からなくならないのでしょうね。

でも実は大丈夫じゃなかった。次々と問題が発生、顕在化していきます。

すでに問題は起きていたんだわね。気づかなかったけれど。

エビリファイ®を止めましょう

初診から56日後にめまい、胸苦、動悸、痺れを訴えたことから、それぞれの薬剤の副作用を精査の上、エビリファイ®の副作用を疑い、中止。

エビリファイ®のせいという確証はないけれど、結果として症状は消失。

でも、病そのものの症状だったかも、と。これに関してはそうも思う。

レスリン®を止めましょう

初診から84日後のこと。元々排尿障害があって自己導尿していたが、悪化して尿閉(まったく尿が出ない状態)になり、そのせいか不穏にもなった。

連絡を受け、それぞれの薬剤の副作用を精査の上、レスリン®の副作用を疑い、中止。

その後尿閉は収まり、しばらくして導尿が不要になり、自排尿出来るようになった。また、高かった血圧も下がった。これなどは、高血圧も尿閉もレスリン®のせいだと考えてほぼ間違いはないだろう。

レキサルティ®を止めましょう

初診から371日後のこと。

定期訪問診療時に最初から怒っていた。

何の説明もなく高血圧の薬が処方されていると仰るので、前の医者から引き継いだ薬である旨説明したが納得せず。

レスリン®中止後、以前よりも血圧コントロールは良好だったのでとりあえず降圧剤は中止。

さらに3日後、呂律がまわらず、左半身麻痺、左口角の下垂があり、救急搬送。意識はあるとのこと。

この時は直接診てはいなくて、電話で状態を聞き、救急隊に連絡するよう指示をした。

某脳神経外科に搬送され、到着時には麻痺は消失していたとのことでしたが一泊入院。診ていないので本当に麻痺があったのかどうか怪しいと思ったりもする。

翌日帰りの介護タクシーの中でシートの下に潜り込もうとしたりするなど不穏になったため、求めに応じてこの際は私が往診。

非常に多弁、多動だったため、アタラックスP筋注を施行。

私だって必要に応じて薬も使う。

処置後は落ち着いたとのこと。

そこからさらに10日後、初診からは385日後に、訪問診療の際定期採血を行ったところ、CKとLDの上昇を認めたため、アイソザイム(CKとLDがどの組織由来なのかを知るための検査)を追加オーダー。

結果は横紋筋由来とのことで、一連の不穏状態は横紋筋融解と、そのことによる血中ミオグロビン上昇によるものと推測し、それぞれの薬剤の副作用を精査の上、レキサルティ®の副作用を疑い、中止。

向精神薬で横紋筋が溶けちゃうなんて珍しくもない

薬の添付文書には「頻度不明」とか書いてあるのがお決まりだけれど。

さっき精査の上とか書いてはみたものの、向精神薬で横紋筋融解症なんて、これまでに何度も経験しているので、そうに違いないと、ハナから考えていた。

レキサルティ®やめたら不穏も収まってCKとLDも現在は正常値。本当に良かった。

落ち着いた後に振り返って本人が仰るには、降圧剤のことで怒って文句を言ったことも、救急搬送されたことも、入院したことも、介護タクシーの中でのことも、一切覚えていないそうだ。

ちなみに、その後血圧は高くならないので現在も降圧剤は止めたままになっている。薬剤性高血圧症だったのだな。

処方されていた向精神薬5剤のうち、実に3剤が副作用(疑い含む)で中止となった、振り返ってみると実に恐ろしい症例。

これだけたくさんの向精神薬を1年数ヶ月という比較的短期間で止めたにもかかわらず、状態は上々だと思っていたその裏で、新たな問題が進行していたことを、私は知らなかった。

ご本人さんが最近とても怒りっぽくて、もの盗られ妄想があって、他の人の部屋に入っていってトラブルを起こしたりするので、入居している施設の側が音を上げてしまったのです。

もう少しだけ早く教えてくれたら良かったのに!

限界を超えてから泣きついて来るのですもの。正直困りました、よ。

横紋筋融解症に気づいて対処できたことの意義を、多分施設のスタッフとかはよく理解できていないので、私に対するリスペクトも別にない。まあ仕方がないし、それはいいけれど、いまの不穏状態は私がちゃんと治療していないからみたいになっている。

丁寧に説明しても、言い訳してるだけのように聞こえそう。

せっかく多剤大量療法から脱したところだったのに。

ちゃんとやってもこんなものだが、ちゃんとやらないともっと悲惨なことになるし。

さーて、どうしたものか。この仕事、本当に難しくて奥が深い。

初診時に既に起きていた問題(副作用)は、高血圧症と排尿障害でした。

抗うつ薬で尿閉になることは時々あるので、覚えておきたいですね。国家試験には出ないのかな?

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